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尾崎行雄と憲政記念館

以下は、尾崎の選挙区・伊勢を中心に咢堂精神の普及に努める「NPO法人咢堂香風」の機関紙『咢堂香風』(2021年6月30日発行)に掲載された文章に加筆したものです。
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「尾崎行雄と憲政記念館」

 国会議事堂の向かい側にある憲政記念館は、もともとは憲政の父・尾崎行雄を記念する「尾崎記念会館」として建てられたものである。今から約60年前、同館の建設に向け、尾崎行雄記念財団が全国に寄付を呼びかけた。超党派の国会議員・地方議会議員、経済界、労働界、教育界、全国の小中学生、海外日系人など幅広い層から浄財が寄せられ、さらに天皇陛下の御賜下金を得て1960年に完成。同時に衆議院に寄贈された。
 正門を入ると、議事堂に向かって立つ尾崎行雄の銅像が出迎えてくれる。その凛とした姿は当時も今も変わらない。ただ、国会を見つめるその眼差しは、ますます厳しさを増しているようにも思える。
 

■憲政の父・尾崎行雄

 尾崎行雄は、1890年の第1回総選挙から第25回まで連続当選し、60年以上にわたり衆議院議員を務めた。その当選回数と議員在職年数は、日本の議会史上、未だ誰にも破られていない偉大な記録である。だが、憲政記念館にある尾崎の銅像も展示物も、単に尾崎の記録を褒め称えるためのものではない。尾崎行雄の思想と行動を冷静に見つめ直し、その中から現代に生かすべきものを見つけ出すことが重要だ。
 尾崎は、立憲政治の確立を唱え続けた政治家である。特権的勢力が思うがままに振る舞う「人の支配、力の支配」ではなく、憲法に基づく「法の支配、道理の支配」を主張した。立憲政治の最大の目的は、この「法の支配」を通じて、国民の生命・財産・自由その他の権利を保障することにある。それを実現する最善の方法は、尾崎曰く「人民から代表を出して、その代表がつくった法律による以外は税金を課したり使ったりできず、また牢に入れることもできないようにすること」である。その代表は有権者の投票によって選ばれるため、立憲政治は「有権者中心の政治」であると尾崎は言う。
 立憲政治の確立に向けて政党・政治家のあるべき姿を説いた尾崎は、同時に、政治家を選ぶ「有権者のあるべき姿」を説き続けた。


■尾崎行雄の政党観

 尾崎は、立憲政治を「立法部の多数を基礎とする政党内閣」が行う政治であるとし、政党の役割を重視した。藩閥・軍閥勢力を排するには近代的な政党組織が必要であると考え、政党のあるべき姿、公党の精神を説くとともに、自らがそれを実践していった。
 尾崎は目まぐるしく所属政党を変えている。そして最も長く過ごした期間は「無所属」だった。政党を転々とし、また設立・解散、脱党・復党を繰り返す尾崎は変節漢と非難された。だがこれは、自身の利害得失や感情・しがらみに基づいた行動ではなく、公党としてのあり方、国家国民本位の政策実現を求めた結果である。
 尾崎は、亡くなる4年前(1950年)、次のような短歌を詠んでいる。

 「国よりも党を重んじ
   党よりも身を重んずる人の群れかな」

 70年前の歌が現在の日本に当てはまるとすれば、国民にとっては悲劇以外のなにものでもない。選挙が近づくたびに、他の政党に移ったり、新たなグループを立ち上げたりする議員が必ず出てくる。また政党の離合集散も繰り返される。そうした行動は必ずしも悪いこととは言えない。問題は、彼らが一体何を目指し、どういう動機で動いているか、ということだ。
 国家国民のための政策実現を求めての行動か、それとも、ただただ自身の当選、自己保身を求めての行動か。与野党問わず、国家・社会のあり方と政策を提示し、論争・競争するのが政党(公党)の役割だ。「公」ではなく「私」のために、政策実現よりも自己保身のためになされる数合わせや離合集散は、国民の政党不信、政治家不信を助長させるだけである。
 尾崎が目指した公党のあり方―「金や数の力、親分子分のしがらみ、個人の利害」ではなく「道理と政策」で競い合える政党を育むことを今一度、政治家も有権者も考える必要があるだろう。


■憲政記念館リニューアル

 冒頭に述べた憲政記念館は、来館者一人一人が、我が国の議会政治の歴史とともに、尾崎の信念や生き方を振り返り、有権者として(あるいは政治家として)自らの行動に役立てていく場でもある。この憲政記念館は、来年(2022年)からリニューアル工事に入り、2026年度中に完成する予定である。現在の敷地に国立公文書館と合築となるが、現記念館のデザイン・特徴を継承し、尾崎の銅像も現在の形のまま館内に設置される予定である。ちなみに、来年4月からは、国会参観バス駐車場横(現記念館の向かい側)に「憲政記念館・代替施設」が開館する。そちらにもぜひご来館頂きたいが、何よりも、「尾崎記念会館の面影」を残す現記念館に、今年中にお越し頂き、60年の歴史に思いを馳せて頂ければ幸いである。(現在、同館では「憲政記念館ふりかえり展」を開催中)

(2021年5月末記)


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憲政の父・尾崎行雄が説いた投票心得

尾崎行雄は、1890年の第1回総選挙から第25回まで連続当選し、衆議院議員を60年以上にわたり務めました。この当選回数と在職期間は、日本の議会史上、まだ誰にも破られていない偉大な記録です。

しかし、それは「尾崎が打ち立てた」というより、「有権者が打ち立てた」記録です。

国の存続・繁栄と国民の幸福のために立憲政治を命懸けで実現させようとした政治家・尾崎の生き方は、未来に大いに語り継ぐべきものだと思います。と同時に、地元に直接的な利益をもたらさなかった尾崎を、「国のために」という思いで国会に送り続けた当時の有権者の姿も忘れてはいけません。

尾崎行雄は、時の政府・権力と厳しく対峙しますが、同時に有権者に向けても厳しい要求を突きつけます。真の立憲政治・民主政治の実現のためには、有権者こそがしっかりしなければならないからです。

前回の参議院議員通常選挙が行われた2016年、私は『18歳からの投票心得10カ条』という本を書きました。この本は、政治や選挙と初めて向き合う若い人たちだけでなく、これまでの政治や選挙に慣れてしまった大人の皆さんにも、改めて民主主義の本質を見つめ直してほしいという思いで書いたものです。「投票率を高める」ことよりも「投票(一票)の質を高める」ことを目的に書きました。

この本には、尾崎行雄が説き続けた政党・議会・選挙のあり方、そして、尾崎が掲げた「有権者の投票心得(10項目)」を載せています。その中から、以下二つ、ご紹介します。

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(第1条)
 何よりもまず、自分はいかなる政治を希望するかという自分の意思を、はっきり決めてかかることが大切だ。選挙は、国民の意思を国政に反映させるために行われる。つまり、反映する本体がしっかりしていなければならない。有権者自身に政治的意思――どのような政治、どのような国・社会を実現したいと考えるのか――がなければ、いくら投票しても意味がない。

(第7条)
 演説会場その他あらゆる機会をとらえて、有権者は各政党または候補者に向かって、具体的な政策を明示するように要求しなければならない。そして政党本部で発表した政策と候補者の言質(げんち)を箇条書きにして、台所の壁にでも貼っておき、実行された公約の上には○をつけ、実行されなかった公約の上には×をつけるようにすること。公約を裏切った政党や議員に対しては、次の選挙の時に絶対に投票しないことを覚悟すれば、政党も議員も、完全に有権者によってリードされるようになる。

   『18歳からの投票心得10カ条』より
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この二つは、いずれも「当たり前」のことで、「心得」などと大袈裟に言うほどのものではない、と思われるかもしれません。しかし、この二つを私たちは確実に実行できているでしょうか。ついつい面倒臭くなって「思考停止」になることはないでしょうか。

選挙になると、政党も候補者も様々な政策を掲げます。
聞き心地は良いが実現性に乏しいもの、分かりやすいが具体性に欠けるもの、今の自分にとっては「お得」でも社会全体で長期的に見た場合は負担が大きすぎるものなどなど。

政策に対する有権者の厳しい目、厳しい問いかけが政治家を鍛えます。




尾崎行雄と相馬雪香

以下は、去る1月に都内で行なった講演の要旨(一部抜粋)です。
「尾崎行雄と三女・相馬雪香の信念と生き方」についてお話ししました。

◆民主主義の厳しさ
尾崎行雄が最も問題にしたのは、国民一人一人の在り方。1917年、尾崎は当時の政党に対し「感情やしがらみで結びつき、国の利益よりも党の利益に走っている」と批判した。あれから100年経ち、皆さんも記憶に新しい2017年秋の総選挙。尾崎が100年前に言った、しがらみ、利害、自分の当落のためだけに動く政治家が、今の日本にいなければ問題はないし、尾崎財団も必要ない。しかし一昨年、我々はまざまざと(その姿を)見せつけられてしまった。ただ、そうしたのは誰か?誰がそんな政党を作ったのか?尾崎に言わせれば「そんな政治家を選んだ国民にこそ責任がある」。これが民主主義。民主主義は、それを守るための努力と覚悟を我々一人一人が持っていないと、あっという間に後戻りをしてしまう。この民主主義の危うさを分かっていた尾崎は、とにかく有権者一人一人の在り方を厳しく説き続けた。このことを忘れてはいけない。そしてこの有権者に対する厳しい目、厳しい言葉は、相馬雪香にそのまま受け継がれている。

◆誰が正しいかではなく何が正しいか
尾崎行雄は、政府の不当な圧力や権力行使を批判したが、一方で国民に対しても厳しい目を向けた。これは、相手がどうこうではなくて、何が正しいかを考えたから。「誰が正しいかではなく何が正しいか」これは非常に重要なキーワード。あの人が言うんだから正しい、政府が言うんだから全部正しい…そう思った時点で思考が停止する。あるいは、国民が言うんだからすべて正しい。「民主主義だから国民の言う通りに動くのが政治の正しいやり方だ」とも尾崎は言わない。国民でも間違うんだということをちゃんと言える。権力に対しても、民衆に対しても、また自分の仲間に対しても、間違いを間違いだと言える。「誰が正しいかではなく何が正しいか」という姿勢が尾崎と相馬の中にがっちりと入っている。

◆自分の頭で考え抜く
尾崎は「憲政の神」と呼ばれた一方で、「国賊・非国民」とも罵られた。暴漢に襲われたり、命を狙われたりしたこともある。それを間近で見ていた幼い雪香は父に尋ねたことがある。「お父さんの言ってること、やってることは間違ってるんですか?」と。尾崎はこう答えた。「間違ってるかどうかは雪香さん、あなたの頭でしっかりと考えなさい」と。これも非常に大事なこと。我々は尾崎が言うから何でも正しいと思ってはいけない。尾崎が言うから、相馬が言うからではなくて、じっくりと自分の頭で考えて答えを出していく。この大切さを尾崎は相馬に伝えている。

◆尾崎行雄と相馬雪香の共通点
尾崎と相馬には4つの共通点がある。1つは、何事もあきらめない「不屈の精神」。2つ目は「日本を世界から孤立させないという信念」。3つ目は「出来ることから始めるという行動力」。そして最後は「物事を公正・公平に見る判断力」。本当に正しいかどうかは、その人の言ってる中身を、我々がきちっと自分の頭で考えなければならない。それがあって初めて国民一人一人の力が成熟し、大きくなっていく。まさに尾崎が厳しく説いた姿勢であり、相馬が自ら実践していった姿勢。さらに相馬雪香には4つの心があった。「本気の心」「純粋な心」「利他の心」「感謝の心」。この気持ちを、我々はしっかりと受け止めて、一人一人がそれを自らの行動に生かしていくことが大事。

◆人生の本舞台は常に将来に在り
尾崎74歳の時、高熱で病床に伏す中で浮かんだ言葉「人生の本舞台は常に将来に在り」。昨日までは訓練で、今日以後が本舞台。過去の知識・経験、悔いや悩みでさえも、未来に向けた糧であるという考え方。尾崎は95歳で亡くなる前年まで国会議員を務め、相馬雪香も96歳で亡くなる前年まで講演で各地を回っていた。尾崎も相馬も生涯現役、まさに「人生の本舞台」の実践者だった。我々もその思いで行かなければならない。過去の経験を生かしながら、常に前を向いて進んでいく。かと言って、遠くの理想ばかりをただ見つめているだけでは意味がない。現実をしっかりと見据え、目の前の一歩一歩を大事にして地道に取り組んでいく。その一つ一つを積み上げていった先に成功がある。尾崎や相馬を大事に思ってくださる皆さんと一緒に、この2人の信念と生き方を一人でも多くの人に伝えていきたい。これからも一緒に頑張っていきましょう。(了)


憲政の父・尾崎に学ぶ

7月29日付の中国新聞・セレクトのコラム「想」に、尾崎行雄に関する論評を掲載して頂きました。

ご存じの通り、尾崎は1912年の憲政擁護運動の際、犬養毅とともに「憲政の神様」と呼ばれ、日本に真の立憲政治・民主政治を根付かせようとした政治家です。

同時に彼は、1920年代から第2次大戦まで一貫して軍縮を唱え、戦後は「世界連邦」の建設を呼びかけた平和主義者としても知られています。しかし、それをもって尾崎を非武装・非暴力の理想主義者と捉えるのは早計でしょう。

尾崎が軍縮を唱えた背景には、あくまで日本という国の存続のために、当時の世界情勢と日本の国力を冷静に分析した上での判断があったと言えます。

また「世界連邦」も、「世界平和という高邁な理想」から導いたというよりも、日本に投下された原子爆弾の威力を目の当たりにし、このままでは日本も世界も滅ぶという危機感から考え出したものと言えます。

政治家が理想(あるべき姿)を掲げることは大切ですが、現実離れした理想論ばかりに終始したのでは意味がありません。

尾崎も、国や国民のあるべき姿を説き続けましたが、そこには常に、内外情勢を冷静に把握した上での、現実的視点からの判断がありました。

今回掲載された論評では、以上のように、理想を掲げつつも、現実的かつ世界的視点で政治判断をしていった尾崎を強調しています。

本文は以下のPDFでご覧頂けます。
中国新聞・セレクト・コラム「想」 憲政の父・尾崎に学ぶ(石田尊昭)

なお、余談ですが、私の実家・広島では中国新聞のシェアは物凄く、私もずっと同紙を読んで育ちました。発行部数も地方紙としては最大規模だそうで、今回掲載して頂けて本当に光栄です。

相馬雪香さんの言葉の力とリーダーシップ

今年は、尾崎行雄三女・相馬雪香(そうま・ゆきか)さんの没後10年にあたります。

去る6月14日、第40回女性経営者物流セミナー(主催:東京都トラック協会。企画・運営:東京都トラック協会女性部)で講演をさせて頂きました。テーマは、「相馬雪香さんの言葉の力とリーダーシップ」。

相馬さんの没後10年という節目に、相馬さんの信念や生き方についてお話しする機会を頂けたことを大変光栄に思います。

当日の参加者は、すでに強いリーダーシップを発揮し、活躍されている女性経営者の方々でした。そんな皆さんにとって、私の話す「相馬さんのリーダーシップ」は、すでに日々実践されている、「当たり前」のことだったかもしれません。にもかかわらず、本当に熱心に耳を傾けメモをとって下さる姿に、講演中ずっと感激していました。
改めて、主催者・参加者の皆様に心から感謝申し上げます。(講演終了後、拙著『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉』『心の力』も完売して頂きました。有り難うございました。)

テーマは「相馬雪香さん」についてでしたが、講演時間の約半分は、相馬さんの父であり、憲政の父でもある「尾崎行雄」について話しました。なぜなら、尾崎を語ることが、そのまま相馬さんを語ることにもなるから。そのくらい両者には、強い絆と共通の信念・生き方があると思っています。

相馬さんは政治家にはなりませんでしたが、常に「世界の中の日本」という視点を持ち、社会や国はどうあるべきか、そのために自分には何ができるかを本気で考え、できることから行動を起こしました。自分の利害得失ではなく「世のため、人のため」という思い。しがらみや権威にとらわれず「誰が正しいかではなく何が正しいか」を問い続ける姿勢。権力に迎合せず、同時に国民に有権者としての厳しい自覚を説き続けた相馬さん。まさに、父・尾崎行雄がそうであったように。

当日の講演を、国際通信社「INPS Japan」理事長兼マルチメディアディレクターの浅霧勝浩さんが収録・編集して下さいました。
以下の動画は、当日の講演時間の約半分(40分程度)ですが、ポイントを絞り込んで、わかりやすくまとめて頂いています。尾崎と相馬を大事に思い、自身もグローバルな視点で「声なき声」を伝える浅霧さんならではの編集です。感謝申し上げます。

講演『相馬雪香さんの言葉の力とリーダーシップ』(石田尊昭)


プロフィール

石田尊昭

Author:石田尊昭
    尾崎行雄記念財団
    理事・事務局長
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【著書一覧】

石田尊昭 政治家の条件
石田尊昭『政治家の条件』
(2022年)


石田尊昭
石田尊昭著『18歳からの投票心得10カ条』
(2016年)



尾崎行雄著/石田尊昭・高橋大輔編『人生の本舞台 復刻版』
(2014年)


民主政治読本 復刻版
尾崎行雄著/石田尊昭解説・編『民主政治読本』
(2013年)



田村重信編・石田尊昭・高橋大輔・高橋富代・小西孝実『尾崎行雄・咢堂塾 政治特別講座講義録』
(2013年)


石田尊昭 心の力
石田尊昭著『心の力』
(2011年)


50の言葉
石田尊昭著『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉』
(2009年)


咢堂言行録
石田尊昭/谷本晴樹著
『咢堂言行録 尾崎行雄の理念と言葉』
(2010年)


石田著作
相馬雪香・富田信男他編
石田尊昭(年譜編纂)
『咢堂 尾崎行雄』
(2000年)

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