公党の精神

第48回衆議院議員総選挙の投票日まで、一週間を切った。

少なくとも戦後に行われた総選挙のなかで、今回ほど「政治家の矜持」が試され、また失われたものはないのではないか。
整合性も実現性も乏しい付け焼刃の政策と、真新しい看板に飛びついた候補者の「嘆き節」はどうでもいいが、われわれ有権者は嘆いてばかりもいられない。

政党間における「政策の論争・競争の末に」もたらされる政権交代は、民主政治の成熟と、より良い国家・社会づくりには必要だ。

ただ、目的と手段をはき違えてはいけない。

政権交代を目的化し、そのために主義や政策を捨て去ることは「政党政治の死」を意味する。

「政権交代のためには政策は二の次で、まずは数の結集こそが政治のリアリズムだ」という意見も、元政治家の識者の一部に見受けられる。しかしそれは政治家・候補者の論理であって、国民・有権者の論理ではない。

与野党問わず、国家・社会の在り方と政策を真摯に提示するのが政党・公党の役割だ。

「公」ではなく「私」のために、政策実現よりも自己保身のためになされる数合わせや離合集散は、国民の政党不信、政治家不信を助長させるだけだ。

「日本に真の政党政治を」と愚直に説き続けた尾崎行雄は、今からちょうど70年前に書いた『民主政治読本』の中で、次のように言っている。

「立憲政治は政党がなければ、やっていけない政治である。私はほとんど過去半世紀以上にわたり、あらゆる非立憲的勢力をはねのけて、名実兼ね備える政党政治を実現することに尽力してきた。そしてこの目的を達成するためには、何としても本当の政党をつくらなければだめだと思って、ずいぶん骨を折ってみたが、どうしてもだめであった。政党の形だけはすぐできるが、それに公党の魂を入れることがどうしてもできない。日本人の思想・感情がまだ封建時代をさまよっているために、利害や感情によって結ばれる親分子分の関係と同型の私党はできても、主義・政策によって結ばれ、国家本意に行動する公党の精神は、どうしても理解できないのであろう。力をめぐって離合する感情はあっても、道理をめぐって集散する理性がないからであろう。」

70年前の咢堂の指摘が現在の日本政治に当てはまるとすれば、国民にとっては悲劇以外のなにものでもない。

ただ、私党に「公党の精神」を吹き込むのは、われわれ有権者の役割でもある。
今回の総選挙は、政策の中身と同時に、政策に対する各党の姿勢、政党政治の在り方そのものも問われている。


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解散総選挙―政党間で政策論争を

急に強まった解散風。
「10月10日公示・22日投開票」が有力とされる。

野党第一党の民進党からは、大義の無い「自己保身の解散だ」という批判の声が上がっている。

確かに、回復傾向にある内閣支持率、民進党からの離党者の続出、そして新党の準備不足というタイミングで、「今なら傷は最小限ですむ」という考えが首相の頭をよぎったとしても不思議ではない。

ただ、解散総選挙がどのような思惑・タイミングで行われようとも、選挙は有権者にとって、これまでの政権運営と政策に対して評価・判断を下す重要な機会である。

野党が首相に対し「伝家の宝刀の抜き方が卑怯だ」といくら批判しても、国民のためにはならない。むしろ、これを機会に、安倍政権がこれまで進めてきた、またこれから進めようとしている外交・安全保障政策、経済・財政政策、社会保障政策などに対して論理的な批判と対案(選択肢)を示し、政策論争を深めるべきだ。

そのほうが、国民の利益につながるだけでなく、野党・新党自らの存在意義を示すことにもなるだろう。

真の政党政治を実現させるべく尽力した尾崎行雄は、今から約90年前、当時の政党について、「過去のしがらみや利害・感情で結びつき、政策競争をせず、本来の目的(国家・国民のための政策実現)を忘れている」と喝破した。

90年を経た今の日本はどうか。

与野党間・政党間での政策をめぐる論争・競争が政党政治には不可欠である。
各政党が内外情勢の現実を踏まえた上で何を最重要課題と位置づけるのか―その優先順位の付け方も判断材料となるだろう。そこを厳しく問い質し、見極める目が有権者に求められる。


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東京都議会議員選挙の「投票心得」

1年前の6月25日、拙著『18歳からの投票心得10か条』の出版記念パーティーが憲政記念館で開催されました。その3日前の22日、参議院議員通常選挙が公示され、7月10日が投開票日というタイミングでした。

私は挨拶の中で、「この本は、政治や選挙と初めて向き合うという若い人たちに読んで頂きたいと同時に、これまでの政治や選挙のあり方に慣れてしまった大人の皆さんに、もう一度、その本質を見つめ直す意味で読んで頂きたいのです。そしてこの本は、『投票率を高める』ことよりも『投票の(一票の)質を高める』ことが大切だという思いで書きました」と述べました。

それからちょうど1年後の今、舞台は国政から都政に移り、都議会議員選挙の真っ只中です。
『18歳からの・・・』には、憲政の父・尾崎行雄が掲げた投票心得を10項目に整理して載せています。それは国政選挙を対象にしたものですが、地方選挙に対しても多くの示唆を与えてくれます。以下3つほど紹介します。

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第1条
 何よりもまず、自分はいかなる政治を希望するかという自分の意思を、はっきり決めてかかることが大切だ。選挙は、国民の意思を国政に反映させるために行われる。つまり、反映する本体がしっかりしていなければならない。有権者自身に政治的意思――どのような政治、どのような国・社会を実現したいと考えるのか――がなければ、いくら投票しても意味がない。


第2条
「出たい人より、出したい人を!」――これは先年、東京市政刷新運動が起こった時、以前東京市長を務めていた人から標語を募ったことがある。その求めに応じて私がつくった標語である。候補者自身の〝出たい〟という意向よりも、有権者の側の〝出したい〟という意向が重視されること。有権者のための選挙である以上、こうあるべきが当然だ。


第7条
 演説会場その他あらゆる機会をとらえて、有権者は各政党または候補者に向かって、具体的な政策を明示するように要求しなければならない。そして政党本部で発表した政策と候補者の言質(げんち)を箇条書きにして、台所の壁にでも貼っておき、実行された公約の上には○をつけ、実行されなかった公約の上には×をつけるようにすること。公約を裏切った政党や議員に対しては、次の選挙の時に絶対に投票しないことを覚悟すれば、政党も議員も、完全に有権者によってリードされるようになる。
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国政であれ地方政治であれ、有権者として、どのような国・社会を希求し、そのためにどのような政策が望ましいかを自らの頭でしっかりと考え、候補者に厳しく問いただしていく姿勢が求められます。そして何より、選挙の主役は候補者ではなく有権者であるという自覚と責任感が求められます。

レッテルを貼り、一方的に他候補(他政党)を誹謗中傷するような言説は論外として、公約に掲げられた政策が、単に聞き心地の良いイメージ先行型のものでないか、財源の裏付けに乏しい付け焼刃のものでないか、また候補者の党籍・主義主張の変更が本当に都政のために行われたものかどうか(=自らの当選・自己保身のためでないか)、都民は厳しく見極めていかなければなりません。

6月23日に告示された東京都議会議員選挙。投票日は7月2日です。


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国民主体の憲法論議を―対立から対話へ

 日本国憲法施行70周年を迎えた5月3日、安倍晋三首相は、新聞インタビューや改憲派集会へのビデオメッセージの中で、「憲法改正・2020年施行」を目指す考えを表明した。

 目標年を、東京五輪・パラリンピックの開催年に設定したことへの賛否はあるが、期限が提示されたことにより、これまで以上に改憲論議が加速することが予想される。

 言うまでもないが、その議論の過程において、憲法を変えること(または変えないこと)それ自体を目的化するのは誤りだ。改憲するか否かは手段であって、目的ではない。

 そもそも憲法とは、国民の生命・財産・自由その他の権利を守り、国民の幸福を図ることを目的に、統治の原理・機構とその権限を定めたものである。仮に、内外環境の変化により、現憲法では国民の生命・財産・自由を守り切れないというのであれば、守れるように変えるべきである。逆に、十分に守れる、むしろ変えることで国民が脅かされるというのであれば、変えるべきではない。

 いずれにせよ、改憲派・護憲派の双方が感情的対立を越え、国民の幸福を図るための国家のあり方・役割について、事実を基に冷静に意見を出し合う「対話の時期」に来ているのではないか。

 かつて「憲政の神」と呼ばれた尾崎行雄は、大日本帝国憲法(欽定憲法)の下であっても、国民が立憲主義を理解し、その精神を身に付ければ、同憲法の立憲的運用は可能だと考えた。また、日本国憲法がどんなに立派な憲法であっても、立憲主義・民主主義の精神が国民に根付かなければ「豚に真珠」と喝破した。

 尾崎は、立憲政治には批判精神が不可欠だと言う。当時の国民の「長い物には巻かれろ。お上には逆らうな」という権力追従の態度と、周囲に無批判に同調し付和雷同する態度を厳しく批判した。換言すれば、政治を「お上任せ」にせず、国民一人一人が国のあり方に責任を持ち、この国をどうしたいかを自らの頭で考え抜くことが、立憲政治の屋台骨になるということだ。

 これから加速するであろう改憲論議においても、国のあり方を決める政治の主体(=統治機構をコントロールする主権者)としての国民の意識が重要となる。

 冒頭の「2020年施行目標表明」に先立つ5月1日、安倍首相は、超党派の新憲法制定議員同盟の集会で、改憲の「機は熟した」と語った。国会議員だけの「盛り上り」では意味がない。国民全体の主権者意識が高まり、国民主体で憲法論議が進められて初めて機は熟す。


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党略政争を排す

「国の存続繁栄と国民の幸福」――。明治・大正・昭和の三代にわたり国会議員を務めた尾崎行雄の取り組みは、常にそれを目指したものでした。

武力を否定せず強硬論を唱えた頃の尾崎も。逆に、国際協調と軍縮を唱えた頃の尾崎も。また、個人の生命・財産・自由その他権利の重要性を説きつつも、普通選挙は時期尚早だとして選挙権拡大に消極的だった頃の尾崎も。そして、民主主義・立憲主義の重要性を説くと同時に、大日本帝国憲法という欽定憲法の下で立憲政治を実現しようとした頃の尾崎も。

一見、変節に見えたり、相対立する思想が混在し矛盾した行動に見えたりもしますが、いずれも、内外情勢の現実を冷静に見極めながら、国の存続繁栄と国民の幸福のために、その時々で最適な手段を考え抜いた結果といえます。

自分のためでも政党のためでもなく、国家国民のために、今の政治が議論・決断すべきことは何か。

以下は、第二次大戦終結後、危機に直面する日本において、党利党略で動く政治と、付和雷同する国民に対し、尾崎が投げかけた厳しい言葉です。
70年を経た今の政治はどうでしょうか。

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「党略政争を排す」

 今日各政党がやっていることは政策の争いではなく、党略本位の政争である。これほど悪いことはないのだが、国民は案外平気で眺めている。敗戦で国が生きるか死ぬかの瀬戸際に立っている時だから、くだらぬ政争はやめて生産高を増すことに総がかりで努力すべきだ。現在のように消費的な喧嘩ばかりしていては問題にならない。野党の側でも内閣を倒すことだけは知り、後継内閣を作ることは知らない。

 先頃も幣原内閣を倒しはしたが作ることはできず、倒した内閣の外務大臣を迎えてようやくこれを組織し、そのうえ自由・進歩の両大政党は彼らが打撃し打倒した内閣の首相と外相を迎えて総裁とした。これでは政変の意味は全然ないのだが、国民も政党も平気である。あたかも古家を無理に壊し、古材木を集めて前より悪い家を作ったようなものだ。馬鹿馬鹿しい限りである。

 今は政争を中止して挙国一致救国政権を確立し、兎に角危機を突破すべきである。政争に没頭し、ストライキ騒ぎをやっているのは自滅の手伝いをやっているものといってよい。それには純真な青年が奮然躍起して、国を救う以外方法はなかろうと思われる。老人は昔の習慣や癖がぬけず、政党の争いをすぐ感情でやる。青年の純情と熱意だけが頼みである。

 しかるに地方によっては唯一の頼みである青少年までもがゼネストに参加したり、内閣打倒運動に協力したりしている。しかもろくにその理由も理解せず、漫然とやっている者が多いようだ。

 政治家は国家の存亡をよそに党争をやっている。資本家と労働者は喧嘩をする。都市と農村は軋轢している。今度の選挙は日本が更生復興するか否かを決する意味もあるので、どうか立派な選挙を行なってもらいたい。特に青年諸君に躍起してもらいたく熱願する次第である。

1947年(昭和22年)『咢堂清談』より
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プロフィール

石田尊昭

Author:石田尊昭
    尾崎行雄記念財団
    理事・事務局長
**********************

【著書一覧】

石田尊昭
石田尊昭著『18歳からの投票心得10カ条』
(2016年)



尾崎行雄著/石田尊昭・高橋大輔編『人生の本舞台 復刻版』
(2014年)


民主政治読本 復刻版
尾崎行雄著/石田尊昭解説・編『民主政治読本』
(2013年)



田村重信編・石田尊昭・高橋大輔・高橋富代・小西孝実『尾崎行雄・咢堂塾 政治特別講座講義録』
(2013年)


石田尊昭 心の力
石田尊昭著『心の力』
(2011年)


50の言葉
石田尊昭著『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉』
(2009年)


咢堂言行録
石田尊昭/谷本晴樹著
『咢堂言行録 尾崎行雄の理念と言葉』
(2010年)


石田著作
相馬雪香・富田信男他編
石田尊昭(年譜編纂)
『咢堂 尾崎行雄』
(2000年)

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