伊藤恭彦著『さもしい人間:正義をさがす哲学』

以前、当ブログで紹介した伊藤先生の著書『政治哲学』。
その伊藤先生から、昨年、新著『さもしい人間:正義をさがす哲学』を頂きました。

ある知人にこの本をすすめたところ、早速購入して読んでくれました。
そして先日、彼と結構長い時間、この本の話をしました。

彼の一番最初の一言。
「この伊藤さんが言ってる内容と、石田さんが書いた『心の力』とは、まるで逆だよね!」

正直、2つの意味でショックでした。

1つは、比べるべきでないもの、比べられないものを比べている、ということです。
伊藤先生のご著書は、政治哲学者が深い思慮と学問的裏付けをもって、そのうえで、わかりやすく、ユーモラスな表現を交えながら、世界や政治のあり方、制度的・政策的課題を「読者に深く考えさせる」ものです。他方、私の『心の力』は、共に活動してきた相馬雪香さんとの体験をもとに、その心を学び、生かしましょうというもの。つまり全然レベルが違うもので、比べられるのもおこがましいものだからです(苦笑)。

もう1つは、「内容がまるで逆」と言われたことです(こちらが本当にショック!)。
比べて論じられるレベルでなくとも、私自身は、実は同じ問題意識に立っている、と思っていた(いる)からです。

ここで、『さもしい人間』を簡単に紹介します。

「さもしい」という言葉。辞書によれば「品性が下劣なさま。心根が卑しい。意地汚い」などとあります。
私たちの日常の中で、「私は、さもしい人間だ」と自覚している人はどのくらいいるでしょうか。

私たちが日ごろ利用する、ファーストフード、激安居酒屋、激安弁当、激安すし店、激安ガソリン・・・。少しでも便利に、少しでも安く、少しでも美味しく、少しでもカッコ良く・・・それは私たちにとっては何ら問題のない、当然の欲求。「さもしい」なんて言われる筋合いはありません。

が、しかし・・・そうした私たちの生活上の欲求を満たすために、この地球上で、どれだけ多くの人間(子供も含みます)と資源が犠牲になっていることか! 本書では、私たちの(悪気の無い)日常が、「地球社会の格差」とどう結びつき、その拡大を促しているのかを、これでもかというくらい見せつけてくれます。そして、ジョン・ロールズの『正義論』などをわかりやすく紹介し、時にはアンパンマンやウルトラマンも登場させ、読者の哲学的思考を刺激します。そして気がつけば、読者自身が(国内の政治的課題はもとより)地球規模の課題を身近に感じ、「正義」というものについて深く考え始めている、といった感じです。

では、そうした課題を解決するためには、どうすればいいのでしょうか。

(以下、引用。勝手に切り貼りしてすみません・・・)
■「本書では、「さもしさ」を人の外見の問題にもしないし、単なる内面(心)の問題にもしない。・・・社会システム(社会の仕組み)の問題として考えていきたい。・・・だから、社会問題を解決するために、「一人一人が道徳的に立派になりましょう」という解決策はあまり意味がない。」
■「助けることを個人に任せると、同じ苦境に立ちながらも、助けられる人と助けられない人という不公平が生じる。だから、市場社会の底辺で苦しむ人々を助けるための基本的な仕組みは、社会制度にしたほうがよい。」
■「人と人とが温かく助け合う共同体社会には戻りたくても戻れない。人と人とが助け合い、支え合う制度をつくり、制度を架け橋とした結びつきを再構築しなくてはならないだろう。」

つまり、「さもしさ」の背景にある構造を解決・改善するためには、個人の道徳心のようなものに頼るのではなく、「制度」を考えなければならないということ。本書は、一貫してそれを主張しています。

さて、ここで、冒頭の知人との会話に戻ります。
拙著『心の力』は、これとは全く逆?なのか。

私は本の中で、相馬さんの信念や生き方に触れながら、心と心の結びつきを大切にした共同体のあり方や、一人ひとりが心の力を育むことの大切さ、さらには、心がまず重要で「その先に(次に)制度・政策がある」と述べました。

なるほど、一見、知人の感想(=伊藤先生とは全く逆)が的を射ているように見えます。

ここで考えなければならないのは、その制度を作るのは「誰なのか」ということです。
制度を作るのは「政治」の役割です。その政治を作り出すのは私たちです。つまり、制度づくりに直接・間接的に参加し、その制度に理解と支持を示しながら「健全に機能」させることが、私たち一人一人に求められるのだと思います。

世界的視野で、平和・社会活動に取り組み続けた相馬さんの「心の力」を学ぶこと――「本気・利他・純粋・感謝」という「心の習慣」は、まさに、そうした政治(制度づくり)に声を上げ、参加し、さらにその制度を健全に機能させようという「動機づけ」を育むことにも繋がると思っています。

政治・社会の「さもしい」問題を、個々人の「心」の問題で片付けてしまってはいけません。そこには「正義」に適った「制度」が必要です。
他方、そうした制度を「作ろう、支えよう、機能させよう」とする意識(心・動機づけ)も同時に必要でしょう。誰かが勝手に作った「正義の制度」のもとで、嫌々ながら生活をおくっていたのでは、その制度は遅かれ早かれ機能不全に陥ってしまうのではないでしょうか。

さて、どうでしょう。伊藤先生と問題意識は同じだと思っているのですが・・・拙著でそれが伝わらないのが、私の筆の限界です(涙)。

と、言うわけで、伊藤恭彦著『さもしい人間』、とにかく超おすすめの1冊です! 
そして、できれば拙著『心の力』と一緒に読んで下さい!(なんか便乗商法みたいですみません・・・)

 →伊藤恭彦著『さもしい人間:正義をさがす哲学』

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プロフィール

石田尊昭

Author:石田尊昭
    尾崎行雄記念財団
    理事・事務局長
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【著書一覧】

石田尊昭
石田尊昭著『18歳からの投票心得10カ条』
(2016年)



尾崎行雄著/石田尊昭・高橋大輔編『人生の本舞台 復刻版』
(2014年)


民主政治読本 復刻版
尾崎行雄著/石田尊昭解説・編『民主政治読本』
(2013年)



田村重信編・石田尊昭・高橋大輔・高橋富代・小西孝実『尾崎行雄・咢堂塾 政治特別講座講義録』
(2013年)


石田尊昭 心の力
石田尊昭著『心の力』
(2011年)


50の言葉
石田尊昭著『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉』
(2009年)


咢堂言行録
石田尊昭/谷本晴樹著
『咢堂言行録 尾崎行雄の理念と言葉』
(2010年)


石田著作
相馬雪香・富田信男他編
石田尊昭(年譜編纂)
『咢堂 尾崎行雄』
(2000年)

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