尾崎行雄「投票の心得9カ条」

12月2日、第47回衆議院議員総選挙が公示されました。

衆議院議員として60有余年、連続当選25回の記録を持つ尾崎行雄。
しかし、尾崎の今日的意義は、その記録ではなく、民主政治の確立に向けた信念・情熱・行動にあります。

そんな尾崎が自ら「魂の書」と呼んだ『民主政治読本』。
昨年、憲政擁護運動100年を記念し復刻出版しました。
その中に「投票の心得9カ条」というものがあります。

選挙の際によく耳にする「出たい人より出したい人を」――この標語は尾崎が考えたものだそうです。
もちろん、出たくもない人を無理やり引っ張り出すという意味ではありません。
あくまで、選挙というものは、「候補者のために」行うものではなく、「有権者のために」行うもの。有権者の側の主体性と責任を、この標語は訴えているのです。

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「投票の心得 9カ条」

どうすれば選挙権を正しく使って、立派な代議士を選び、絶対に有権者を裏切らない立法府をつくることができるか。次に掲げるいろいろな点を注意してやれば、大体間違いのない選挙をすることができるであろう。

(1)何よりもまず、自分はいかなる政治を希望するかという自分の意思を、はっきり決めてかかることが大切である。選挙は国民の意思を国政に反映させるために行なわれるというが、有権者それ自身に政治的意欲がなければ、すなわち反映する本体がなくては、いくら投票しても意味がない。

(2) 「出たい人より出したい人を」――これは先年、東京市政刷新運動が起こった時、以前東京市長を務めていた人から標語を募ったことがある。その求めに応じて私がつくった標語である。有権者のための選挙である以上、こうあるべきが当然であろう。

(3) 金銭や、ごちそうや、因縁や、情実で投票しないのはもちろん、選挙の費用は、有権者の持ち寄りにしなければならないこと。一気にそこまでいけないとすれば、なるべく候補者に金を使わせないように工夫すること。

(4)買収・ごちそう・哀訴・嘆願など、一切の不正な選挙をする候補者には、絶対に投票しないこと。

(5) 一から十まで政府に反対する議員も困り者だが、一から十まで政府に盲従する議員よりはましだ。常に政府党が勝つ選挙よりも、どちらかといえば、在野党のほうが受けのいい選挙のほうが民主政治の趣意にかなっている。

(6) 「人物よりも政党に入れよ」というのは、真の政党が存在していることを前提とした公式論である。まだ真の政党にまで発達していない現在の日本の政党(現在はまだ私党・徒党の域を脱していない未熟な政党で、公党とはいえないことは次章で詳しく論じる)を相手としては、無条件で賛成することはできない。しかし、立憲政治は結局、政党内閣制度によって運営されなければならない。今の政党を向上させて、真の公党に育て上げる準備のためにも、各政党の政綱・政策を真面目に研究し、自分の希望するような政治をやる政党はどれか、よくよく見極めてから投票すること。

(7)演説会場その他あらゆる機会をとらえて、有権者は各政党または候補者に向かって、具体的な政策を明示するように要求しなければならない。そして政党本部で発表した政策と候補者の言質を箇条書きにして、台所の壁にでも貼っておき、その公約が実行された場合はその件の上に○をつけ、公約にそむいた場合は、その件の上に×をつけるようにすること。公約を裏切った政党や議員に対しては、次の選挙の時に絶対に投票しないことを覚悟すれば、政党も議員も、完全に有権者によってリードされるようになる。

(8)議場の内外で国会の品位を汚すような行為をする者(下等なヤジや、殴り合いをするような者はこの部類に入れる)には投票しない。当選後、公明正大な理由もなく、選挙民の了解も得ずに党籍を変更し、または他の政党に入党するような者には投票しない。多数で無理を押し通した政党には、投票によってその横暴をこらしめてやるくらいの覚悟がなければならない。

(9)これまでの日本の選挙では、大臣や政務官になると投票は必ず増えた。これは、官尊民卑の奴隷根性を暴露したものである。また、多数党でなければ何もできないから投票しても損だと考えることも、「長いものには巻かれろ」式の封建思想の名残であって、多数・少数は有権者が投票して決めるのだという民主政治の「いろは」さえもわきまえない者の戯言である。この官尊民卑と事大主義による投票は、今日以降の選挙では、きれいさっぱり清算したいものである。

川上を濁しておいて、下流を清く保つことはできない。川上の選挙が濁れば、川下の政治も濁るのが当たり前である。腐った水にボウフラがわくように、腐った選挙からは自堕落政治のボウフラがわく。日本民主化の大建築は、正しい選挙の土台の上に建てなければならない。

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プロフィール

石田尊昭

Author:石田尊昭
    尾崎行雄記念財団
    理事・事務局長
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【著書一覧】

石田尊昭
石田尊昭著『18歳からの投票心得10カ条』
(2016年)



尾崎行雄著/石田尊昭・高橋大輔編『人生の本舞台 復刻版』
(2014年)


民主政治読本 復刻版
尾崎行雄著/石田尊昭解説・編『民主政治読本』
(2013年)



田村重信編・石田尊昭・高橋大輔・高橋富代・小西孝実『尾崎行雄・咢堂塾 政治特別講座講義録』
(2013年)


石田尊昭 心の力
石田尊昭著『心の力』
(2011年)


50の言葉
石田尊昭著『平和活動家・相馬雪香さんの50の言葉』
(2009年)


咢堂言行録
石田尊昭/谷本晴樹著
『咢堂言行録 尾崎行雄の理念と言葉』
(2010年)


石田著作
相馬雪香・富田信男他編
石田尊昭(年譜編纂)
『咢堂 尾崎行雄』
(2000年)

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