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辞世を懐に演壇に立つ

1937年(昭和12年)2月17日、第70議会において、辞世の句を懐に演壇に立った尾崎行雄。
軍事費増大を打ち出す林内閣に、決死の覚悟で「軍部攻撃演説」を行いました。

「私は国家のため黙っておっては、議員の職分がすまないと考えた。それを言えば殺されるだろうと考えたけれども、どうしても黙っておれない。…私は死を決して、辞世を懐にして、演壇に立ったのである。」

尾崎が懐に忍ばせた辞世は次の二首でした。

・「大君も聞こし召すらん命にもかへてけふなすわが言あげを」
・「正成が陣に臨める心もて我は立つなり演壇の前」

当時、尾崎は78歳。文字にして約2万4千字、ほとんど手元を見ることなく行われた軍部攻撃演説。信念を貫き、死を覚悟した政治家の姿がそこにありました。

演説は8項目に分かれており、冒頭でその8点の概要が述べられています。以下、その一部を抜粋します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
第一には、国防費の増大の理由を承りたい。…政府および議員の方々のご説を聞いても、国防費の増大は現在の内外の情勢において已むを得ぬということを、たいていおっしゃるようでありまするが…どうぞ已むを得ざる理由をお示し願いたいのであります。…

第二には、その已むを得ぬという内外の情勢は、内から起こるところの情勢であるか、ただし外からくるところの情勢であるかを承りたい。その原因は内外いずれにあるか、それがわからなければ転回しようと思っても、転回の途はない。

第三には、その已むを得ぬ事情が外からくるとするならば、陸からくるか、海からくるか…陸からくるところの外国の関係は、陸軍をもって防がねばならず、海からくるべき予想があるならば、海軍をもって防がねばならぬ。…

第四には、陸からも海からも…ともにくるということになりますと、…ひょっとしたら二大国以上、三大国、四大国に当たらなければなりませぬが、そういうことがわが国においてできる力があるかないか、これを知らなければなりませぬ。…

第五には、…その相手に陸軍なり海軍なりをだんだん拡張して行くのには、競争して行く軍備充実の途もあり、また協定して充実するの途もありますが、競争の途によって陸軍なり海軍なり、相手と同等もしくはそれ以上の力を備えることができるや否や、もしできるというならばその根拠をお示し願いたい。

第六には、…軍備はいかに充実しても国防は危うくなるということもあります。なぜならば軍備は自分だけのことである。国防というものは相手のあることでありますから、われが充実する以上にかれが余計充実すれば、…比較的に国防は危うくなるのであります。…これを区別してお考えを願い、また計画を立てて頂きたい。

第七には、日独協定の結果はどうなるかというお見込みを伺いたい。…日独協定が果たして共産主義防御にどれだけ役に立つか、また第二には国体擁護にはどういう効益があるかということを承りたい。…これは政府を困らせるために言うのではない。国家のために誠心誠意、国民とともにそのことを理解したく思ってお尋ねするのであります。

第八にはいちばん大きい問題、帝国の方針は何であるか、日本帝国はどこに行くつもりでいまの政府は舵をとっているのか、それがわかりませぬ。…北の方に発展せしむるつもりか、南の方に発展せしむるつもりか、大陸を相手にするのか、海洋を相手にするのか、…全く国の方針なく、…それでは国はとうてい目的を達することはできませぬから、この国是に関する大方針をぜひ承りたい。…

(この後、それぞれの項目について、国名や具体例を挙げながら、内外の現状認識と検討すべき課題を詳細に述べています。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

さて、ここで注目すべきは、尾崎が国防というものを極めて現実的視点から捉えていることです。地政学的観点から日本を取り巻く情勢と、自国及び他国の国力を的確に分析した上で、改めて国家の目的・方針・戦略、そして国防を担う軍部・武力のあり方について政府を問い質しているのです。

平和主義者・民主主義者の代表的政治家として挙げられることの多い尾崎ですが、この「軍部攻撃演説」は、軍部・武力それ自体を否定したものではなく、国家を内から危機に陥れるような軍部の越権的行為やそれを止められない政党の機能不全、そして非合理的で無計画な武力拡大を批判したのです。

また、「軍部攻撃」などと聞くと、過激で扇動的な言葉を想像しがちですが、極めて冷静かつ論理的に主張を展開し、ただ批判するのではなく、改善の方途までも示しています。

この演説から80年。
当時と今とでは、世界情勢や憲法体制が異なるため単純に比較することはできませんが、国防・安全保障政策を考える際の論点、またそれを議論する国会議員の姿勢として、当時の尾崎に学ぶべき点も少しはあるのではないでしょうか。

政府が抽象的で的外れな例え話やイメージ先行の説明をしたり、またそれを問い質す議員が、扇動的な表現や、国会中継のカメラに向かってプラカードを掲げて泣き叫ぶような国会の姿は、当時の尾崎だけでなく、現在を生きる私たちも望んでいないのではないでしょうか。


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Author:石田尊昭
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石田尊昭
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(2014年)


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尾崎行雄著/石田尊昭解説・編『民主政治読本』
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『咢堂 尾崎行雄』
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